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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)103号 判決 1985年7月30日

原告

株式会社ファミリア

右代表者

坂野通夫

右訴訟代理人弁護士

小松正次郎

小松陽一郎

被告

株式会社ファミリー

右代表者

谷尚仁

右訴訟代理人弁理士

井上清子

亀川義示

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告は、「特許庁が、昭和五九年二月二二日、昭和五六年審判第一一五八〇号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文同旨の判決を求めた。

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、「FAMILIAR」なる欧文字を横書きにし、指定商品を商標法施行令別表第一類「薬剤、医療補助品」とする登録第六七八八六三号商標(昭和三七年六月一一日商標登録出願、昭和四〇年六月一九日設定登録、昭和五〇年八月二七日存続期間の更新登録。以下「本件登録商標」という。)の商標権者であるところ、被告は、昭和五六年五月三〇日、商標法第五〇条の規定に基づき、特許庁に対し、本件登録商標の指定商品中「ルーデサック、子宮サック、子宮ペッサリー、避妊用具」に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求したが(昭和五六年審判第一一五八〇号事件)、特許庁は、昭和五九年二月二二日、「本件登録商標中「ルーデサック、子宮サック、子宮ペッサリー、避妊用具」に係る商標登録を取り消す。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年三月一四日、原告に送達された。

二  本件審決理由の要旨

1  被告(請求人)が本件審判請求をするについての利益を有するか否かについて判断するに、被告は、昭和五三年九月二二日第一類「化学品、薬剤、医療補助品」(その後、「ルーデサック、子宮サック、子宮ペッサリー、避妊用具」と補正)を指定商品として商標登録出願(商願昭五三―六九五〇七号)をしたところ、右商標登録出願について、本件登録商標を引用され、拒絶査定を受けたので、右拒絶査定に対し不服の審判を請求し、右審判は現に特許庁に係属中であるから、被告が本件審判を請求するについての利益を有することは明らかである。

2  そこで、本案に入つて審理するに、商標法第五〇条の規定による商標登録の取消審判の請求があつたときは、同条第二項の規定により、被請求人において、請求に係る指定商品について当該商標を使用していることを証明し、又は使用していないことについて正当な理由があることを明らかにしない限り、その登録の取消しを免れないところ、原告(被請求人)は、本件審判請求書の副本の送達を受けた日から相当の期間を経過したにもかかわらず、本件登録商標の使用に関しては、なんら答弁、立証するところがない。

3  したがつて、本件登録商標の指定商品中「ルーデサック、子宮サック、子宮ペッサリー、避妊用具」に係る商標登録は、商標法第五〇条の規定により、取消されるべきである。

三  本件審決を取り消すべき事由

1  被告(請求人)は、本件審判を請求するについて請求の利益を有しない。本件審決は、この点の判断を誤り、被告には本件審判請求の利益があるとした点において違法である。すなわち、

(一) 商標法第五〇条の立法趣旨は、使用されていない商標の登録を取り消して、権利者以外の希望者に右商標の使用を開放することにある。したがつて、被告に本件審判請求の法的利益があるというためには、本件審判請求による登録の取消しによつて係属中の被告の商標登録出願について拒絶理由の解消を得ることができ、右取消しを請求している指定商品についてその商標登録出願に係る商標を使用することができるということが必須不可欠の前提事項である。

(二) しかるに、被告が本件審判請求で取消しを求めている商標登録に係る指定商品「ルーデサック、子宮サック、子宮ペッサリー、避妊用具」は、その余の「医療補助品」(例えば、ガーゼ、綿棒、乳首)とは、類似の関係にあるから、たとえ医療補助品の一部である右の指定商品について商標登録を取り消してみたところで、残余の商品についての本件商標権の禁止権が右取消しに係る指定商品にも及んでいるので、本件審判請求による登録の取消しによつては、係属中の被告の商標登録出願について拒絶理由の解消を得ることはできず、取消しを請求している商標登録に係る指定商品について右出願の商標を使用することができるということにはならないのである。

右の「ルーデサック、子宮サック、子宮ペッサリー、避妊用具」とその余の「医療補助品」(例えば、ガーゼ、綿棒、乳首)とが類似の関係にあることは、類似商品審査基準においても、その旨推定されているところである。右の両者は、昭和三五年四月以降、いわゆる材料主義、生産者主義から離れた「用途主義、販売店主義」(類似商品審査基準三頁)のもとにおいて、実務上、互いに類似する商品として取り扱われてきたのである。また、商品の類否は、同じ販売店で販売されているかどうか等の商品取引の実情のもとにおいて判断されるべきものであるところ、右の両者ともに、薬局等で販売されていることは公知の事実であるから、その意味においても互いに類似の商品である。更に、商品の類否は、商品自体の類否ではなく、商品の出所の混同を生ずるおそれがあるかどうかによつて決すべきところ、本件登録商標は、その連合商標である指定商品を第一類「薬剤、医療補助品」とする「フアミリア」なる片仮名を横書きしてなる登録第一四五八二一五商標とともに周知著名であり、かつ、原告の右著名商標及び商号が「ファミリア」であるのに対し、被告の商号が「ファミリー」であつて、商号が類似している関係上、「ルーデサック、子宮サック、子宮ペッサリー、避妊用具」と「ガーゼ、綿棒、乳首」等とは、同一営業主の製造販売に係る商品であると誤認されるおそれが十二分にあるから、右の両者は、その意味においても互いに類似の関係にあるといえる。

(三) また、本件登録商標の連合商標である前記登録第一四五八二一五号商標も、称呼、観念において本件登録商標と同一性を有し、被告が本件審判請求で取消しを求めている商標登録に係る指定商品についての商標の使用に対しては、右連合商標の商標権の禁止権が及んでいるので、被告は、前記拒絶理由の解消を得ることができず、その商標登録出願に係る商標を使用することができることにはならない。

(四) したがつて、被告は、本件審判請求について正当な法的利益を有しないものというべきである。

2  原告(被請求人)は、本件審判請求に係る指定商品についてその登録商標の使用をしていないことについて、商標法第五〇条第二項ただし書所定の正当な理由を有するところ、本件審決は、この点を看過したものであつて、違法である。すなわち、

(一) 商標法第五〇条第二項ただし書にいう「正当な理由」に該当する事例として、「不使用取消制度の目的も、商標を使用する者の業務上の信用の維持育成を図るという商標法の目的」上、「周知商標の出所の混同を防止するための目的で取得された防護的商標も、不使用取消審判登録前三年以内におけるそれらの不使用が、商標権者の業務上の信用を維持するために必要やむを得ない場合は、正当の理由があるとすべきである。」(綱野誠・商標〔新版〕六六五頁参照)。ところで、原告は、本件審判において、類似商品の範囲内では、その一部の商品について商標登録を取り消してみたところで、残存商品についての禁止権がこれに及ぶ旨主張して、原告には右意味において正当な理由があることを明らかにしているのである。

(二) 本件審決は、原告は本件審判において右の正当な理由があることを明らかにしていないというが、前記本件登録商標の連合商標である登録第一四五八二一五号商標が存在することは、特許庁に「顕著なる事実」であるから、右事実をもつて原告は右の正当な理由を明らかにしたものというべきである。すなわち、右連合商標は、使用の事実をもつて昭和五六年三月三一日に登録されており、これは本件審判請求時である同年六月一日前三年以内の事実であるところ、原告は、右連合商標を被告が本件審判請求で取消しを求めている商標登録に係る指定商品については使用していないものの、それと類似の商品については使用しているのであるから、原告には、右指定商品について本件登録商標を使用していないことについて正当な理由があるものというべきである。

なお、「連合商標は、登録商標についての侵害(不使用取消審判請求も侵害の一種であると信ずる。)に対して、強力確実な救済手段を確保するという防護的な機能を発揮させるために認められた制度で」あり、「不使用取消審判請求のあつた商標にかかる指定商品と同一又は類似の商品について連合商標が使用されている場合には、取消請求のあつた商品について登録商標を取り消しても、取消を請求している者は商標を使用することができず、不使用取消の目的は達せられない」ので、「不使用取消の請求を認めるべきではない。」(綱野・前掲書六六六頁参照)。特に、本件審判請求のように、指定商品中における「類似商品」(群)の一部についての取消しを求めている事案においてはなお更である。

第三  被告の答弁<省略>

第四  証拠関係<省略>

理由

一本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決の理由の要旨が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。

二そこで、原告が主張する取消事由の有無について以下判断することとする。

1  被告が本件審判請求について請求人適格を有するか否かについて

商標登録の取消しの審判に関する商標法第五〇条の規定は、右審判の請求人適格について明文の規定を設けていないが、右審判は、同規定にいう商標登録の取消しを求めるについて法律上正当の利益を有する者に限り、請求することができるものと解するのが相当である。(なお、このことは、誤認、混同を生ずる使用に基づく商標登録取消しの審判に関する商標法第五一条第一項及び第五三条第一項に特に「何人も」審判を請求することができる旨、また、登録異議の申立てについての同法第一七条の規定により準用される特許法第五五条第一項に「何人も」異議の申立てをすることができる旨明記されていることと対比し、おのずから明らかである。)

これを本件についてみるに、被告は、第一類「化学品、薬剤、医療補助品」(その後、「ルーデサック、子宮サック、子宮ペッサリー、避妊用具」と補正)を指定商品として商標登録出願(商願昭五三―六九五〇七号)をしたところ、本件登録商標を引用され、右商標登録出願について拒絶査定を受けたため、右拒絶査定に対する不服の審判を請求し、右審判は現に特許庁に係属中であり(この事実は、原告において明らかに争わないところである。)、右の事実関係に徴すれば、本件登録商標の指定商品中取消請求のあつた指定商品についての登録商標の存否、すなわち本件審判請求の結果いかんは、被告の前記拒絶査定に対する不服の審判請求に法的影響を及ぼしうる関係にあるものというべきであるから、右拒絶査定に対する不服審判事件の具体的成否いかんにかかわらず、被告は、本件審判請求によりその請求に係る商標登録の取消しを求めるについて法律上の利益を有するものといわなければならない。

原告は、被告が本件審判請求で、本件登録商標の指定商品中「ルーデサック、子宮サック、子宮ペッサリー、避妊用具」について商標登録を取り消してみたところで、残余の指定商品についての本件商標権の禁止権が右取消しに係る指定商品に及ぶだけではなく、原告の有する本件登録商標の連合商標である登録第一四五八二一五号商標権の禁止権も同様及ぶゆえ、たとえ本件審判請求による登録の取消しがなされても、係属中の被告の商標登録出願について拒絶理由の解消を得ることはできず、したがつて、被告は本件審判請求について請求の利益を有しない旨主張する。

しかしながら、前説示のとおり、被告の前記拒絶査定に対する不服審判請求の成否自体は、被告が本件審判請求の請求人たる資格を有することと直接的な関係に立つものではないから、原告の右主張はいずれも理由がないものというほかない。

2  商標法第五〇条第二項ただし書所定の正当な理由の有無等について

原告は、本件審判において、類似商品の範囲内では、その一部の商品について商標登録を取り消してみたところで、残存商品についての禁止権がこれに及ぶ旨主張して、原告には、本件登録商標を取消請求に係る指定商品につき使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにした旨主張する。しかし、原告の本件審判時での前記主張を右原告主張のように正当な理由があるとの趣旨に善解するとしても、商標法第五〇条第二項の規定にいう「正当な理由」とは、取消請求に係る指定商品についてその登録商標の使用を妨げる事情で、その不使用をもつて当該商標権者の責に帰することが社会通念上酷であるような場合をいうものと解すべきであり、原告主張の事由はこれに当たらないから、原告の右主張は採用することができない。

更に、原告は、本件登録商標の連合商標である登録第一四五八二一五号商標が存在することは、特許庁に「顕著なる事実」であるから、右事実をもつて原告に「正当な理由」があることを明らかにしたものというべきである旨主張する。しかしながら、原告の右主張事由が商標法第五〇条第二項ただし書にいう「正当の理由」に当たらないことは、「正当の理由」の意義についての前説示に照らして、明らかであるから、原告の右主張も理由がないものというほかない。

なお、原告は、不使用取消審判請求のあつた登録商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について連合商標が使用されている場合には、取消請求のあつた商品についての商標登録を取り消しても連合商標の禁止権が及ぶゆえ、不使用取消しを認めるべきではない趣旨の主張をするが、<証拠>によれば、本件審判手続において、原告がこの点について全く主張も立証もしなかつたことは明らかであり、このように審判手続において全く主張も立証もせず、したがつて、審決理由にも示されなかつた事項を新たに主張することは、審決の判断の当否を争う審決取消訴訟においては許されないものと解すべきであるから、右原告の主張は到底採用することができない。

三以上の次第であるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官武居二郎 裁判官杉山伸顕 裁判官清永利亮)

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